轢かれて気づく 伊藤

私たちが生まれた時から車は身の回りにたくさん走っていて、走る車の1メートル隣を生身で歩くのも、またそういう状況を目撃するのも、何ら特別ではなくごく普通の光景だ。見慣れすぎていて無自覚になっている。車の殺傷能力の高さは身の回りの生活道具の中で群を抜いている。車を見たことがない人、例えば欧米の文明から隔離されたジャングルで生活している人の1メートル隣を時速六十キロの車が通り過ぎたら、その人は大袈裟に飛び退くのが何となく想像できる。見慣れすぎて無自覚になった感覚を何とか取り戻すべきだと思う。免許証講習で轢かれる実習を取り入れるとか。